精神科病院で目の当たりにした現実

 私たちは精神科病院に就職して多くのリアリティショックを受けました。数十年長期入院をされている方、隔離や身体拘束を長期間受けている方、入院を数十回繰り返している方、精神科病院の職員に怯えながら入院されている方…。そのような中で作業療法を提供する違和感…。それと同時に、上記の原因は入院されている方にあるのか?という疑問が生じました。  

精神科医療に対する問題意識

 毎日新聞は2018年8月21日に「精神疾患50年入院1773人」、「閉ざされた病室55年」という見出しで、全国の精神病床のある病院に、1,700人を超える患者が半世紀以上にわたって入院している実態が明らかになったという衝撃的な記事を掲載しました。

 日本の精神科病院は他国に比べ病床数が圧倒的に多く、約16万人以上が1年以上の長期入院の状態にあります(図1と図2)。

 国は2004年の改革ビジョン(資料)において「社会的入院」者(受け入れ条件が整えば退院可能な人)は約7万人存在するとし、「入院医療中心から地域生活中心へ」という理念のもと、様々な施策を行ってきました。

 しかし、改革ビジョンの目標達成により「10年間で約7万床相当の精神病床数の減少が促される」とされていましたが、2017年「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」の報告書のなかで、実際は2002年35.6万床(33.2万人)から、2014年33.8万床(29.6万人)へと、1.8万床(3.6 万人)しか減少しなかったのです。(資料

出所:日本医師会 病床数の国際比較(資料)を基に作成

出所:令和2年度精神保健福祉資料を基に作成

法人設立のきっかけ

 しかしながら日本の精神科作業療法士の多くは精神科病院に勤務し、地域の場で活動する精神科作業療法士は少ない現状があります(資料)。私たちは精神科病院や医療の枠の中だけで作業療法士の専門性は生かしきれないと感じていました。

 さらに言えば私たちはリハビリテーション職として、精神障がいのある人々の地域生活を守るという使命を果たせていない状況だと認識しています。そこで、専門性を生かしつつ、前述した使命を果たすべく、本法人を立ち上げました。

作業療法士として

 作業療法とは、「人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す」(資料)とされています。一方で精神科病院にある作業療法室では手芸や工作などの作業を画一的に入院されている方へ提供するに留まっています。私たちは、生活行為と記述されている通り、作業は生活の中にあるはずだと考えています。
 人々の生活行為には、「したいこと」「やりたいこと」「目指していること」などが含まれます。そのような作業へアクセスするお手伝いこそ作業療法士の専門性の重要な要素だと考えています。現在、精神科作業療法は病院の中で実施されていますが、それを地域へ移行させたいと考えています。

埼玉県川越市である理由

 社会人2年目の時から、埼玉県の精神医療人権センターの活動に参加し、権利擁護活動に関わるなかで、埼玉県の精神保健福祉における様々な課題を知りました。

◼️埼玉県は精神科病院での身体拘束率が全国で1位(『朝日新聞』2019.5.23

◼️精神科病院での死亡退院が多い、訪問看護など地域資源が少ない、医療保護入院という強制入院が多い(精神保健福祉資料令和元年度より)。

◼️川越市は、川越市に居住地がある長期入院者が300名を超えており、これは埼玉県内で2番目に多い(ReMHRAD/在・退院者の状況より)。

SCRAP & BUILD

破壊と創造

 時代の変遷に応じて役割を終えていると考えられるものはスクラップ(廃止・縮減)し、それによって生み出された財源をより重要な新しい事業に置き換える手法としてこの言葉は用いられます。法人名に込めた思いは、単純に新しいものを創造する、変化していくということに留まりません。

 既存のものを壊す、ひいては私たち自身も個人の中で価値観や考え方、視点の破壊と創造の試行錯誤を繰り返し続けるといった意味を込めました。